山本貴志×佐藤卓史 対談2008
(3) ついに、四半世紀。
外国に住む日本人が必ず経験するあれこれ。日本人同士、知らずに外国語で話し続ける脱力体験や、山本君がワルシャワで遭遇した戦慄のスリ体験など、爆笑話題満載です。
山本君の知られざるストレス解消法にも迫ります。
- 佐藤
- ピアノ以外のことで、暇なときはこういうことやってる、とか。趣味とか。
- 山本
- 趣味。そうだねぇ…一番のストレス解消というか気分転換は、旅行をすること。 あるいは、旅行までいかなくても、ちょっと時間があったらおいしいものを食べに行ったり。
- 佐藤
- うん。
- 山本
- 綺麗なホテルに泊まってみたり。
- 佐藤
- ほう。それはもうポーランドにいた頃もやってたの?
- 山本
- ポーランドでも。ポーランドにも居心地のいいホテルがあってね。市内だからうちのすぐ近くで、タクシーで10分なんだけど。
- 佐藤
- なんか豪華だねぇ。
- 山本
- リフレッシュしたいっていうときに泊まりに行っていたかな…1泊だけね。
- 佐藤
- そうなんだ。でも、ワルシャワって豪華なホテルたくさんあるよね。
- 山本
- 意外とね。
- 佐藤
- びっくりしちゃった。こんなに乱立してるの?みたいな。
- 山本
- そう。なんかね、最近結構いろいろできてきて。
- 佐藤
- 僕、去年トルンって街に行って、その前後にワルシャワでちょっと電車乗り換えたりとかして。
- 山本
- ああトルンね。
- 佐藤
- ワルシャワ市内はそんなに見れなかったんだけど、やっぱりそのへん結構変わったのかなぁとか思って。
- 山本
- そう思う。最近は大きいショッピングセンターもできるし。物価もどんどん上がってきているよ。ユーロが導入されるからかな?
- 佐藤
- そうだよね。でもまだなんでしょ?
- 山本
- まだ。早くて2012年っていう噂だよ。
- 佐藤
- 12年。まだまだだね。
- 山本
- そうだね。
- 佐藤
- でもズウォティ(ポーランドの通貨)もさあ、だんだん上がってびっくりしちゃった。
- 山本
- すごく高くなって。本当に。
- 佐藤
- 2012年かぁ。僕ズウォティをいくらか使い残してきたからそれまでにまた行かないと。
- 山本
- ああまだ持ってるの。
- 佐藤
- じゃあコンサートのことでもしゃべろうか。山本君ピアノデュオは初めてなんだよね。
- 山本
- 初めて。
- 佐藤
- どんなふうになるんだろうね。今度はなんかね、10回目だし、何か特別なことをやりたいって話になってさ。
- 山本
- いやもう本当にありがとうございます。
- 佐藤
- いえいえこちらこそ。いろんなアイディアが出たんだけど、ホールにピアノ2台あるし、誰が良いかな、と思ったら、もう一番意外性のあるところを。
- 山本
- (笑)
- 佐藤
- まさか山本君と僕がやるとは誰も思わないだろうということで、そこらへんを狙ってみたんだけども。でも他の楽器との室内楽とかはこれまでは。
- 山本
- ええと、学校に室内楽の授業があったから。室内楽って昔からすごく好きで。
- 佐藤
- そうなんだ。じゃあそのときはトリオとかそんな感じなの?
- 山本
- トリオとか、あと歌のピアノパートとか。
- 佐藤
- ああ、歌は難しいよね。歌詞があるし…。
- 山本
- すごく難しい。でも合わさったときの音ってきれいだよね。
- 佐藤
- そうだね。
- 山本
- ハノーファーは結構日本人多い?
- 佐藤
- 最近多くなってきた。数年前は数えるぐらいしかいなくて、みんな知り合いみたいな感じだったらしいんだけど、今はもうわかんないもんね。
- 山本
- ああ、そう。日本人で留学する人増えてきたよね。
- 佐藤
- ワルシャワも結構いる?
- 山本
- ワルシャワも最近全然わからなくて。学校に行かないからね、新しい人のことはさっぱりで。世代交代というかね、僕も四捨五入したらもう三十路…(笑)。25歳になっちゃったから。
- 佐藤
- え、4月生まれだっけ。
- 山本
- そう4月。
- 佐藤
- 4月何日?
- 山本
- 12。
- 佐藤
- 12か早いね。
- 山本
- ついに、四半世紀。ねぇ?
- 佐藤
- (爆笑)
- 山本
- 四半世紀っていうと嫌だよねー。それにしても早いなあと思って。5年もワルシャワにいた感じがしないよ。
- 佐藤
- そうかー。でもさ、僕21歳のときワルシャワに講習会受けに行ったら、一緒に行ってた日本人に45歳だと思われたことあるよ。
- 山本
- えーっ。僕は反対。日本ではさすがにそこまで言われないんだけど、ポーランドで、初めに「8歳ですか?」って言われたの。
- 佐藤
- はっ?
- 山本
- おかしいでしょ? 聞き間違いかと思って「え、もう一度言って?」って言ったら「え、8歳じゃないの? あなた小学生でしょ?」って言われて。
- 佐藤
- (笑)
- 山本
- 「21です」ってその人に言ったら「えーーっ。8歳じゃないの? どう見ても8歳にしか見えない」って。
- 佐藤
- ははははは…
- 山本
- こんな大きい8歳がいるかっ! あ、こっちにはいるんだ、と思って。
- 佐藤
- まあ、いるけどさ。8歳はないよな。
- 山本
- もう、ひどいよね。ちょっとショックだったあれは。
- 佐藤
- まあでも確かに日本人は若く見られるよね。
- 山本
- 若く見える。確かに僕、向こうの人を見ても、すっごい年上なんだなぁと思ったら、実は15歳だったとか。
- 佐藤
- あるあるある。
- 山本
- あるよね。だから同じような感じなのかもしれないね。歳の取り方がちょっと違う。日本人って意外と20代30代ってあまり変わらない。
- 佐藤
- ああ確かに。
- 山本
- 向こうの人って10代で既に大人びて。
- 佐藤
- その後変わんないんだよね。
- 山本
- 意外と変わらないよね。だからね、毎回毎回お酒買うにも証明書必要だし。
- 佐藤
- (笑)
- 山本
- 何歳までこれをやればいいんだろうと思って。
- 佐藤
- でも、なんかさ、他のアジアの国の人に間違えられたりしない?
- 山本
- 必ず中国人に間違えられる。
- 佐藤
- そういうのあるよね。でもね、パリに行くとね、絶対間違えられないの。
- 山本
- 本当?
- 佐藤
- うん。必ず日本人だと思われて日本語しゃべりかけられるの。間違えられたこと1回もない。
- 山本
- へえ。
- 佐藤
- フランス人にはわかるらしいんだよね。
- 山本
- 不思議だねぇ。でも、日本人でも見分けつかなかったりすることもあるよね。
- 佐藤
- そう、僕コンクール受けに行ったら、明らかに参加者らしき人と一緒に電車に乗ったわけ、フランスで。そしたらお互いに相手のことを、 韓国人かどこかアジアの人だと思って、英語でずっとしゃべってたの。「どこに住んでんの?」とか英語でしゃべっててさ。で、「どこから来たの?」って聞いたら「日本」。 「え〜〜っ」って。
- 山本
- (笑)
- 佐藤
- 今までの英語の会話は何だったの、って。
- 山本
- そうそうそう。僕はもっとひどくて、初めて会った日本人とポーランド語で話していたの。学校の中ではね、 外国人同士ってポーランド語だったりするんだよ。
- 佐藤
- ああそうなんだ。
- 山本
- それで、新しい韓国の人なのかな、と思ってしゃべりかけて、向こうもそれに答えてきたから、そのまましばらくしゃべっていたんだけど、 次第に「なんか話がおかしいなぁ」と思って。そうしたらね、廊下に日本人が通りかかったの。それから「あー、久しぶり」ってその人日本語で言ったんだよね。
- 佐藤
- あっはっはっはっは…
- 山本
- ちょっと待って、日本人…? と思って、「に、日本の方ですか…?」って言ったら、「あ、あ、え、あの…あなたも? あらごめんなさーい」って話になってねー、それまでの会話は無駄な会話だったよね。
- 佐藤
- (笑)そういうことあるよね。
- 山本
- 日本人同士でもわからないのに。すごいね本当にパリの人は。
- 佐藤
- ワルシャワは治安は良いの?
- 山本
- あのね、一昔前までなんかスキンヘッドのグループが外国人排斥の…
- 佐藤
- ああネオナチみたいな。
- 山本
- そうそう、あれがあってね。被害にあった日本人もいたみたい。
- 佐藤
- ええっ。
- 山本
- それを聞いたらちょっと物騒だなぁと思ったけれど、最近はそんなに。相変わらずスリとか、そういったものは多いみたいだけど。
- 佐藤
- ああそうなんだ。
- 山本
- 僕も最初に来たときに、言葉も全然わからなくて、ケンタッキーだったら日本にもあるから大丈夫だろうと思って、入ったのね。入って座って、 向かいの椅子にお財布の入ったカバンを置いておいたら、しばらく経ったらね、お店空いているのに隣に誰かちょんと座ってきたの。「この人何をしたいんだろう? あ、絶対このカバンに興味あるんだな」と思って、僕もすぐ取り上げればよかったんだけど、ちょっと様子を見ようと思って。
- 佐藤
- ふふふふふ。
- 山本
- それで、下を向いて食べるふりをして見ていたのね。そうしたら、やっぱり下の方から手が回ってきて、カバンのチャックを開けて、 そこから財布を取り出して、でもね、その人も、ちょっと抜けているというか…その場でね、お札を数え始めたの。
- 佐藤
- あっはははははは。
- 山本
- そんなことする前に盗って逃げればいいのにねー。僕もそんなこと言っている場合じゃないんだけど。それで、その時点で「やめて下さい。 返して」って言ったら、「ああごめん」とか言って返してくれた。
- 佐藤
- なんだそれ!(笑)
- 山本
- 変な人でしょ。でもね、そのあとしつこくついてきてね、「君さぁ、ポーランドのお金はこんなにあるのに、ドルはないの?」って、 ドルが欲しかったみたいで。
- 佐藤
- ああ。
- 山本
- 「君旅行者なんでしょ、なんでドル持ってないの?」って。そういうね、ちょっと間抜けなスリには遭ったね。行ってすぐ1ヶ月後ぐらいだったから、 「ああこういうこともあるんだな」って。友達も、ちょっとトラムでカバン肩にかけてボーッとしていたら、見たらもう中の財布がないとか。
- 佐藤
- ああ、じゃあそういう系統の治安はちょっと。
- 山本
- そういうことはある。だから、人を殺したとか、凶悪犯罪はそれほどないと思うんだけど。ものを盗んだりとかはね。
- 佐藤
- ハノーファーはそういうのもまずないからね。人がそんなに多くないってこともあるけど。
- 山本
- ああ本当に?
- 佐藤
- 混雑の中でスリとかそういうのはあんまりない。少なくとも夜とかに街に出なければ、そんなにトラブルはない感じだね。
- 山本
- なるほどねー。
(つづく)