山本貴志×佐藤卓史 対談2008

(4) 揚げた大根・干した大根。

結局こういう話になってしまうのもまた日本人の証でしょうか…。ポーランドの日本料理店で出くわした仰天天ぷらのエピソードや、 「のだめ」にも登場した謎の日本米「シノデ」など、食べ物の話に終始する対談最終回。
山本
ハノーファーって日本料理の店ってある?
佐藤
まあ、寿司屋とかだけどね。
山本
日本人がやってるのそれは?
佐藤
ええっとねぇ。ほとんど韓国人とかで。
山本
ああ多いよね、やっぱりね。
佐藤
日本人とドイツ人の夫婦とか。
山本
でもちゃんとやっぱりあるんだ。
佐藤
でもワルシャワも結構あるでしょ?
山本
ワルシャワは一応首都だから、でもワルシャワの外に出るとほとんどなくてね。
佐藤
ああそうなんだ。
山本
怪しげなお寿司屋さんがあったりね(笑)
佐藤
寿司とは名ばかりみたいなね。
山本
驚いたんだけれど、あるとき天ぷら盛り合わせっていうのを頼んだのね。
佐藤
はいはい。
山本
「この天ぷら白身魚かな?」って、見た目はね、白身魚かなと思って食べたら大根の天ぷらだったの。
佐藤
大根!
山本
しかも大根に塩こしょうしてあって。
佐藤
(爆笑)
山本
塩こしょうした大根を天ぷらにしてあって。
佐藤
え、それどこで食べたの?
山本
ポーランドの地方都市。お寿司はなかなか良かったんだけど、天ぷらがね…(笑)
佐藤
(笑)たぶん天ぷらの概念をなんか間違えてるんだね。でもそういうところってどこの都市でもあるよねー。
山本
ある。外食ってする?
佐藤
ほとんどしない。
山本
しないよねー。
佐藤
高いしさ、待たされるしさ、それでまずかったりしたらなんか嫌だから。自分で作った方がさ、自分の口に合ったものは食べれるじゃない。
山本
絶対そう。
佐藤
自炊してたんでしょ?
山本
そう。あのね、パンが食べられない。食べられないわけではないんだけど…。
佐藤
毎日は嫌、みたいな?
山本
そうそう。だから、ほぼ家でご飯炊いて。
佐藤
そうなんだー。じゃあ炊飯器を持っていったの?
山本
そう。炊飯器日本から持っていって。僕ね、初め変なこだわりがあって、おいしいご飯がいいからって、でもお米もそんなに良いものは手に入らないのにね、 炊飯器だけこだわって。それで、空港で売られている炊飯器は限られているだろうと思って、地元の家電店で良さそうな炊飯器を買いました。それで、 変圧器が必要なのは知っていたんだけど、大丈夫だろうと思って、空港で、「すみません、この炊飯器に使える変圧器を下さい」って言ったら「これです。 どうぞ」って…巨大な、箱形の変圧器。重くて!
佐藤
(笑)
山本
2〜3kgある。あのね、パソコンだったら小さい変圧器でいいけれど、炊飯器ってものすごく電気使うから、このくらいのものでないとダメだって。 炊飯器より重いものを持っていっても…と思って、仕方がないから空港で変圧器内蔵の炊飯器を買って。
佐藤
そりゃそうだよね。
山本
本当に無駄なこだわりだったということがよくわかったんだけど(笑)でもね、おいしいご飯が食べたかったから。
佐藤
どうしてもそうだよね。
山本
力が出ないよ、日本人は。
佐藤
ご飯と醤油の味とね。醤油がないとさ、だんだん士気が低下する。
山本
低下する低下する(笑)。やっぱり必要だよねー。日本の食材とか買える?
佐藤
うーん、アジアショップはたくさんあるよ。だけど日本のものっていっても、まず基本的に魚がないから。魚ないよね?
山本
ない。
佐藤
魚料理ができないから。…まあでも調味料なんかは割と買えるけどね。
山本
ああほんと。ワルシャワもね、最近増えてきたんだけど、それこそね、輸入先というか仕入れ先を見ると、デュッセルドルフから来てるみたいで。
佐藤
デュッセルドルフ! まあ確かに日本人多いからね。
山本
輸出入商がその辺りにいるみたいだね。
佐藤
ああなるほどね。じゃあ結構手に入るんだ。
山本
うん。昔よりは全然便利になって。
佐藤
ふーんそうだね。こういうことは聞かないとわかんないね。
山本
昔はお米一つ探すにも大変で。一応日本米って書いてあるんだけども、古米とか、どこで作っているかわからないとか…。 あのほら、「シノデ」ってあるよね。
佐藤
シノデね。あははは。
山本
あれ、なんでヨーロッパどこでも売られているんだろう。
佐藤
謎だよねあれ。
山本
すごく謎。一番初めにね、シノデが一番日本っぽいって勧められて、食べていたの。最初は「あ、これだったらパサパサじゃなくて食べられる」って思っていたけれど、 だんだん違うものに目がいくようになって。いい時代になったよ。食材とか送ってもらったりする?
佐藤
留学始めるときに、楽譜とかと一緒にたくさん送って、でも僕まだ1年半ちょっとだから、それがまだ余ってるんだよね。 賞味期限が次々切れていってさ、「ああもうこのカレーは食べなきゃな」とか。
山本
そうそうそう。
佐藤
だからといって賞味期限切れたものを他人にあげるわけにもいかないしさ。
山本
そうだよね…結構貴重だよね。僕なんか、一度何を血迷ったかね、一番腐りやすい調理済みの煮物か何かをね、送ってもらったことある。
佐藤
…えっ。タッパーとかで?
山本
一度凍らせて、タッパーに入れて、発泡スチロールの中に入れて、なるべく溶けないようにして。
佐藤
ああ、「クール宅急便」みたいな。
山本
それで「腐ったら捨てる」っていうことで送ってもらった。無謀だったかもね(笑)それでも食べられた。すごく寒い時期だったこともあって。
佐藤
あ、そうなんだー。まあね、上空も寒いしね。
山本
そうそうそう。友達に話したら呆れていたけれど。
佐藤
(笑)だけど、郵便とかちゃんと届くの? そういうの。
山本
あのね、一度、切り干し大根を盗まれたことがあった。
佐藤
なになに? 切り干し大根?
山本
何であんなもの盗んだんだろう。2袋入れたはずなのに1袋ないのね。なんで1袋だけ盗んだんだろう。
佐藤
(爆笑)別にポーランド人が好きそうでもないけどね。
山本
ねぇ。何かもわからないのに…。
佐藤
でもじゃあちゃんと1回開けてるんだね。
山本
ただ、開けた形跡がなくて、でも中身が入れ替えてあるのね。「なんでこんなことできるんだろう」と思ったら、底から開けたらしく。 底にテープ貼ってあった。
佐藤
なるほどね。
山本
税関の確認書が入っていたよ。
佐藤
ああ。僕ね、何回も税関で止められて。
山本
え、本当に。
佐藤
まあ船便はあんまり止められないの。でも、あのSAL便っていうの? あれで送ると、半分ぐらいは止められてね。ポストにハガキが来てるわけ。 「1週間以内に取りに来い」って。で、取りに来いって言われたってさ、段ボール何箱も持って帰るわけにいかないじゃない。でも、 見に行ってじゃあこれをうちに送って下さいっていうと、またいつ来るかわかんないらしくて。しょうがないからトランクとか持っていってさ。
山本
うわあ。
佐藤
もうその場で段ボール開けて、中のものトランクに全部詰めて。そしたら今度「段ボールここに捨てるな」とかうるさいわけね。
山本
うるさいよね、税関はね。
佐藤
もう「わかったよ」とか思って、税関出たらバス停にあるゴミ箱に全部段ボール引き裂いて捨てて。
山本
いい手間だよね(笑)
佐藤
やっぱり日本からは自分で持っていくに限るね。
山本
それが一番だよねー。でも送ってもらわないといけないときだってあるし。
佐藤
日本に最長で何年ぐらい帰らなかった?
山本
ええとね、1年半。
佐藤
そりゃ長いね。僕なんか3ヶ月以上あっちにいることってほとんどないから。
山本
ああ本当に。でも忙しいね、もう行ったり来たりで。
佐藤
だからいつも自分で持っていくからさ、足りなくなるってことはあんまりない。
山本
日本へ帰ったら食べ物詰めて持っていくんだね。
佐藤
そうだね。必ず。
山本
必要だよね。
佐藤
干し椎茸とか。
山本
椎茸…そうそう! 欲しくなるよね、そういうものって!
(対談完・2008年6月14日、長野市にて)