曲目解説  Program Notes

モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448(375a)

 モーツァルトが2台ピアノのために書いた唯一のソナタ。1781年秋に作曲され、11月23日に政治家ヨハン・ミヒャエル・アウエルハンマーの邸宅で催された演奏会において、 同家の娘ヨゼファ(1758-1820)と作曲者によって初演された。モーツァルトは雇い主だった大司教との確執から故郷ザルツブルクを去り、 この頃ウィーンで独立した音楽家として生活を始めたばかりで、ヨゼファは彼のピアノの生徒のひとりだった。 彼は父親宛の手紙の中でこの生徒の容姿をひどく貶しているが、同時にピアノの腕前は一流であるとも伝えている。 実際にこの作品では2台のピアノが全く対等に扱われており、ヨゼファが師と遜色ない演奏技術を身につけていたことを窺わせる。 モーツァルトが第2ピアノを受け持った初演は好評をもって迎えられ、翌年にもヨゼファと、1784年には同じく弟子のバルバラ・プロイヤーとの共演で再演された。 曲は3楽章からなり、華やかで祝祭的な雰囲気をまとっている。
 第1楽章は堂々たるユニゾンの第1主題と、優雅な第2主題からなるソナタ形式。両奏者が華麗なパッセージをやりとりし、演奏技巧を競い合う。
 第2楽章はト長調の緩徐楽章。第1ピアノと第2ピアノの旋律の絡み合いが親密な語らいの気分を演出する。
 第3楽章は快活なロンド・ソナタ形式のフィナーレ。底抜けに楽しく陽気な疾走はオペラ・ブッファの終幕を思わせる。
(2008年11月20日「山本貴志×佐藤卓史 衝撃のデュオ」プログラムに寄せて)
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