曲目解説  Program Notes

シューベルト:ピアノ・ソナタ 第13番 イ長調 D664 op.120

 シューベルトのピアノ・ソナタは全部で21曲とされているが、この数字には未完のものも含まれている。 「歌曲王」シューベルトは、美しいメロディを次々と生み出す才能には恵まれていたが、一つのモチーフから有機的、立体的に音楽を構築していく、ソナタのような大作は不得手だったのではないか、と一般に言われている。 しかしながら、このイ長調のソナタ(長大なD959のイ長調ソナタと区別して「小さなイ長調」とも呼ばれる)はみずみずしい香りと歌謡性に満ちた、素晴らしく愛らしい作品である。 作曲は1819年、10年後にウィーンで出版された。
 第1楽章(アレグロ・モデラート)の第1主題は、シューベルトのいくつかの歌曲を思わせる、美しく伸びやかな歌である。 第2主題のチャーミングな表情ととともに、春の息吹のようなみずみずしさを感じさせる。 短い展開部では、激しいオクターヴの音階も現れるが、それが穏やかな再現部に戻っていくさまはまことに魅力的である。 第2楽章(アンダンテ)は簡素ながら情緒溢れる音楽。第3楽章(アレグロ)はロンドに近い自由なソナタ形式で書かれている。 手回しオルガンのようなバスの保続音の上に、軽やかで可愛らしい旋律が歌われる第1主題、ウィーンの舞曲を思わせるリズミカルな第2主題からなる。
(2003年7月12日「佐藤卓史ピアノリサイタル」プログラムに寄せて)
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