曲目解説  Program Notes

プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ 第7番 変ロ長調 op.83「戦争」

 ロシア革命後、15年に及ぶ亡命生活を経て祖国に戻ったプロコフィエフは3つのピアノ・ソナタの作曲に着手する。 すなわち第6番から第8番(作品82〜84)、第2次世界大戦の最中に発表されたことから「戦争ソナタ」の名で知られている連作ソナタである。 いずれも作曲者の円熟が窺える傑作であるが、とりわけ凝縮された構成と強烈なインパクトを持つ第7番は高い人気を誇り、20世紀の最も重要なピアノ音楽の1つに数えられている。 このソナタは1939年から42年にかけて作曲され、完成の翌年、モスクワにてスヴャトスラフ・リヒテルによって初演された。
 古典的なソナタ形式を踏襲した第1楽章は、リズミカルな第1主題とメロディアスな第2主題からなる。たびたび登場するタランテラのリズムで下降する短いモティーフを、 リヒテルは「火事場で空中を舞う燃えかすの塊」と喩えた。楽章を覆う言いしれない不安感は時代の反映なのだろうか。息の長い旋律が続いていく第2楽章は、 重厚かつ哀愁に満ちた緩徐楽章。情熱的なクライマックスではロシア音楽の伝統たる「鐘の音」が響いてくる。第3楽章はトッカータ風のフィナーレで、 2・3・2の分割を持つ8分の7拍子で書かれている。プロコフィエフの特徴である打楽器的なピアノ書法によって、野性的な舞踏のイメージが楽章を貫く。 終盤に向けて曲は次第に盛り上がり、すさまじいエネルギーとヴィルトゥオジティを放出しながら圧倒的なクライマックスへと突進していく。
(2008年9月7日「絆 vol.7 ロシア魂」プログラムに寄せて)
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