曲目解説  Program Notes

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲 第1番 変ニ長調 op.10

 自ら優れたピアニストであったプロコフィエフは、生涯に5曲のピアノ協奏曲を残した。その最初の作品は、ペテルブルク音楽院在学中の1911年から翌年にかけて作曲され、 1912年8月7日モスクワの「人民の家」ホールで、作曲者自身の独奏によって初演された。この初演は賛否両論であったが、 先輩に当たるミャスコフスキーらモダニストのグループからは絶賛を浴び、翌13年ユルゲンソン社から出版された。
 伝統的な作曲法を脱し、独自の個性の開花が認められるこの作品について、プロコフィエフは後年「私の最初の成熟した作品」と書き記している。 親友のプーランクもまた、「ベートーヴェンの第1協奏曲がその円熟期を予知させるように、プロコフィエフの第1協奏曲も、この作曲家の偉大な資質を表している」との賛辞を贈った。
 曲はリストのピアノ協奏曲を思わせる単一楽章で、全体は切れ目なしに続く3つの部分から成る。
 第1部はアレグロ・ブリオーゾの序奏で始まり、力強く雄大な主題Aが提示される。ついでピアノソロのジグザグの動きから始まるトッカータ風の主題Bがダイナミックに、 付点リズムを伴う行進曲風の主題Cがユーモラスに演奏され、主題BとCが入り交じりながら盛り上がりハ長調の主和音で一端終止する。 メノ・モッソと指示されたホ短調の抒情的な部分(主題D)、続く激烈なピアノのカデンツァを挟んで、推移の後、下降半音階から始まる主題Eがffで現れる。 この主題の後半の動機をピアノが繰り返す中オーケストラが主題Aの再現を行い、ディミヌエンドして静かに終わる。
 第2部はアンダンテ・アッサイの緩徐楽章、プロコフィエフの清冽な抒情性が発揮されている。弦楽器が提示する美しい旋律が転調・変奏されながら何度も繰り返される。 途中ピアノの左手に主題Eの拡大形が出現し、クライマックスを迎えた後、静けさを取り戻し不協和音を残して終わる。
 第3部アレグロ・スケルツァンドは再現部に当たる。短い序奏の後ピアノによる主題E、トランペットとホルンによる主題Cの再現が行われる。 これを引き継いだピアノのアクロバティックなカデンツァの後、ピアノの名人芸を伴いながらのオーケストラによる主題Dの再現がしばらく続く。 そして主題Eのトゥッティ、さらに第1部と同様主題Aの再現へとなだれ込み、堂々とした足どりで華々しく曲を閉じる。短いながら豪快なピアニズムが要求される難曲である。
(2004年9月9日「芸大モーニングコンサート」プログラムに寄せて)
©2004 佐藤卓史 無断転載禁止