曲目解説  Program Notes

モーツァルト:アンダンテ ヘ長調 K.616

 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトはその最晩年に、依頼されて「自動オルガン」という楽器のための作品をいくつか書いている。 この楽器は時計と連動して、指定された時刻に自動的に演奏が始まる仕組みになっていた。K.616のアンダンテの自筆譜は3段のソプラノ譜表で書かれているが、 ウィーンで出版された初版譜には「クラヴィーアのためのロンド」と題されており、オルガンだけでなくピアノや管楽アンサンブル等で演奏されることもある。
 曲は緩やかな4分の2拍子で書かれており、3オクターヴという限られた音域の中で、シンプルな主題によるロンドが展開されていく。 晩年のモーツァルト特有の、天上の世界のごとき澄みきった美しさの刻印は、この曲にもはっきりと押されている。
(2007年、CD「ラ・カンパネラ〜珠玉のピアノ小品集」ライナーノーツに寄せて)
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