曲目解説  Program Notes

モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第30番 ニ長調 K.306(300l)

 20歳代前半のマンハイム=パリ旅行の道中、モーツァルトはドレスデンの宮廷作曲家ヨーゼフ・シュスター(1748-1812)のヴァイオリン・ソナタに出会い、感銘を受けて、 十数年ぶりに再びヴァイオリン・ソナタの創作に着手した。1778年に書かれた7つのヴァイオリン・ソナタは、幼少期の作風と比べ劇的な変貌を見せている。 かつてはピアノパートにより大きな比重が置かれ、音楽的主導権を握っていたのに対し、ここでは2つの楽器が同等に扱われており、現在まで未発見のシュスターのソナタも、 そのような特徴を備えていたものと思われる。7曲のうちK.301-306の6曲のソナタは1778年11月にパリのジャン・ジョルジュ・シベールから「作品1」として出版され、 「マンハイム・ソナタ」の愛称で親しまれている。
 曲集の最後を飾るこのニ長調のソナタは、同年夏におそらくパリで作曲されたと推定される。ヴァイオリンとピアノが協奏曲風に対等に渡り合い、華やかな演奏効果を上げている。
 快活な第1楽章はソナタ形式で書かれているが、第1主題の再現が楽章の最後に置かれるという珍しい構成。第2楽章は天上の世界を思わせる甘美な緩徐楽章。 フィナーレは次々と拍子の違うセクションが現れる一風変わったロンドで、即興的な雰囲気の中に華やかな技巧がちりばめられている。
(2006年10月4日「佐藤俊介・佐藤卓史 秋のデュオ」プログラムに寄せて)
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