曲目解説  Program Notes

ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 op.58

 「ピアノの詩人」ショパンの残した最後のピアノ・ソナタは、第2番「葬送」から5年後の1844年に作曲された。持病の肺結核はさらに進行し、春には父親を亡くすなど、 この頃のショパンは決して幸福な状況ではなかったものの、創作力は円熟を増し、均衡のとれた構成と霊感に溢れた旋律美を兼ね備えた、ピアノ音楽史上に残る傑作となっている。
 第1楽章(アレグロ・マエストーソ)は悲愴感漂う決然とした第1主題、限りなく優美な第2主題から構成される。展開部では第1主題を中心に変奏が行われ、 激しい表現が聴かれる。第1主題の再現はなく、再現部は第2主題から始まる。短いコーダが力強く楽章を閉じる。
 第2楽章(モルト・ヴィヴァーチェ)は変ホ長調のスケルツォ。急速なパッセージの中にも不気味な陰が見え隠れする。ロ長調の中間部ではコラール風の静けさが訪れる。
 第3楽章(ラルゴ)は重々しい序奏で開始される。左手の淡々とした伴奏の上に、美しい旋律が歌われる。中間部は分散和音が夢のようなはかない雰囲気を醸し出す。
 第4楽章(プレスト・マ・ノン・タント)はロンド形式のフィナーレ。情熱的なロンド主題は、堂々とした副主題や急速なパッセージを挟みながら、 繰り返されるたびに激しさを増していく。最後にはロ長調のコーダになだれ込み、勝利のファンファーレを鳴り響かせて感動的に幕を下ろす。 この大ソナタを締めくくるにふさわしい、非常に素晴らしいフィナーレである。
(2003年10月9日「輝く埼玉の名演奏家たち」プログラムに寄せて)
©2003 佐藤卓史 無断転載禁止