曲目解説 Program Notes
バルトーク:ピアノ・ソナタ Sz.80
ベラ・バルトークはハンガリーに生まれた、20世紀の最も重要な作曲家の一人であり、ピアニスト・音楽学者としても活動した。 音楽学者としては、同郷の作曲家ゾルタン・コダーイ(1882-1967)とともにハンガリーの民俗音楽を収集、体系化したことで特に知られており、そこで得た民俗的要素を好んで自作曲に取り入れた。 その禁欲的な創作姿勢と大胆な作風、そして民俗音楽に対する情熱は、いわゆる「国民楽派」の作曲家たちとは一線を画する本格的なものだったが、そうした態度はストラヴィンスキーに「偉大な人物の犯した大きな過ち」とまで評されるなど、多くの誤解、不理解を招いた。彼の唯一のピアノ・ソナタは、前作「舞踏組曲」の後3年のブランクをおいて1926年に作曲された。 初期のヴィルトゥオーゾな書法、民謡や舞曲に直に素材を求めた作風は影を潜め、絶対音楽としての古典的で堅固な構築感と、低音でのクラスター的打撃音や不協和音程を大胆に用いた革新的なスタイルが融合している。 全曲を通して拍子が頻繁に変わり、打楽器的なピアノ書法が展開されている。 3楽章合わせて演奏時間は12分程度だが、バルトークの音楽宇宙がその短い時間に極度に凝縮されている印象を与える。
第1楽章は上昇する3音の動機(この動機はリズムを変えて全曲に顔を出す)と精力的なパルスを刻む導入部に続き、断片的な旋律がプリミティヴに発展していく第1主題、経過句を挟んで、語りのような同音連打で始まる民謡風の第2主題が提示される。 展開部は主に経過句のモティーフと冒頭動機で構成され、短い再現部では主要主題のみの再現が行われる。 コーダではテンポを上げ、打楽器的テクスチュアがより顕著となる。
第2楽章は緩徐楽章だが、メロディー・和声の変化に乏しく、対位法的で厳しく重い緊張感が支配する。 保続低音を伴う中間部を持つ三部形式。
第3楽章は民俗的色彩の濃厚なロンド。舞曲風の主要主題の間にいくつかの副主題が挟まれるが、それらも主要主題から派生した楽想、あるいはその大胆な変奏とも解釈できる。 終結部は速度が上がり、クラスター風の和音で興奮のうちに曲を閉じる。
(2006年7月24日「絆 vol.5 20世紀を追う」プログラムに寄せて)
©2006 佐藤卓史 無断転載禁止
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